住宅密集地に数多く存在する既存の石積み擁壁において、胴込めコンクリートが風化している、または空石積みの「規格適用外の擁壁」も数多く存在しており、過去の大規模地震でも多くの倒壊事例が報告されています。このため国土強靭化に向けて、密集した住宅地の狭隘地でも施工でき、低廉で確実な耐震補強が可能な工法が求められていました。ハイブリッドMP工法(Hybrid Micropiling Method)は、このような背景から研究・開発された経済的で工期短縮も可能な信頼性の高い耐震補強工法です。
工法の説明
ハイブリッドMP工法では、既設石積み擁壁の全面と頭部水平部に鉄筋で補強した張りコンクリートを打設する前に、擁壁天端部に斜め鉛直方向に「引張パイル」と称する呼び径φ115~φ146のマイクロパイルを打設します。更に既設石積みの基礎部に「圧縮パイル」と称する「口元補強管付き」のマイクロパイルを略鉛直に打設します。最後に、前記張りコンクリートでマイクロパイルの頭部を連結し、擁壁全面を保護することにより石積み擁壁の「転倒」、「滑動」、および「基礎部の沈下」が生じない補強を完了します。この構造により、張りコンクリートが破壊しない限り石積み擁壁の崩壊は生じず、ボルトの打設ピッチも「引張パイル」と「圧縮パイル」は本カタログの表紙図に記載の如く、約1.5m~2.5mおきに打設すれば良く、極めて経済的な高速施工が可能となります。ただ、打設本数があまりにも少ない個別宅地への対応では施工費の割増しが必要となりうるため複数件数の一括施工が望しいです。
設計の概要
ハイブリッドMP工法の設計は、図-1のようにL2地震時の震度法による慣性力を断面を構成する「張りコン」、「積み石」、「胴込めコンクリート」、「裏グリ石」、「滑り土塊」に作用させて擁壁基礎部での転倒、滑動の照査、さらに引張パイル及び圧縮パイルの部材応力照査を実施します。
地震時の主働すべり線は試行クサビ法により求め、滑り土圧の水平成分を擁壁の底面よりh/3の位置に生じるものとして照査します。
図-1:設計断面の荷重解析の考え方
試行クサビ法は、フリーソフトも出回っていますが、図-2のような比較的安価なソフトも数多く販売されているので参照してみることを推奨します。
図-2:試行クサビ法の汎用ソフト例